『愛のゆくえ』は2016年にリリースされた、きのこ帝国のメジャー 2ndアルバム。良い。
きのこ帝国はどのアルバムが好きかというのが人によって分かれると思う。私はこのアルバムを聴いてからきのこ帝国が好きになった。
全体を通して
アルバム全体をとおして、シューゲイザーのようなアンビエントのような雰囲気が漂っていて良い。
正直はじめて聴いたとき、きのこ帝国ってこんなに成熟したバンドだったっけという驚きをおぼえた*1。
たとえば前作『猫とアレルギー』の「夏の夜の街」なんかは、ノスタルジックなイントロが最高にたまらん曲ではあるけれど、うがった聴き方をすれば、進行にわかりやすい盛り上がりを用意する誘惑に勝てなかったかーとも思えたり。
本作はその段階から一皮むけたというか、ちょっと違う視点に立って音楽を見つめなおしたような印象さえ感じられた。
曲
T1. 愛のゆくえ
まるでシューゲイザー宣言のような、こういうアルバムだからね?って聴く人に断りを入れるかのような轟音ギターでアルバムがはじまる。アルバムと同名の曲。
消え入りそうな歌声がファズのうねりと絶妙にマッチしてて良いんだ。
T2. LAST DANCE
軽快なベースとバズドラムのステップと、対照的にべっとりとディレイするギターがひらすらに気持ちいい曲。
アルバムで一番好きかも。だんだんとこの金属的なアタック音の残るギターのストロークが癖になる。
そういえば学生時代、ある友人が「恋はバスドラムだ」とか宣っていた。その真意は知らんけど、だとしたらこの、軽快な別れのバスドラムのなんと哀しいことか。
T5. 夏の影
フェスの野外ステージでちょっと涼しくなった夜の時間帯にゆらゆらしながら聴いていたい。
T7. 畦道で
これも良い。
サビらしい部分の、ぶぉうぶぉぶぉっぶぉぉぉぃという振りきれたスキャットと、それを丁寧にユニゾンするギターの美しさ。
ほんとにそれだけで潔く終わってしまう感も良い。
T9. クライベイビー
アルバム中でこの曲だけ際立って、感情をまっすぐに音に乗せて作られたような、熱量の高い楽曲。
曲の並びでいうとアルバムの締めにあってしかるべき。というより、ここ以外に入っていたら浮いてしまいそうではある。
先行してリリースされたシングルなのでさもありなん、などと思いきや、歌詞の 「21gを愛だとしよう その21gはどこにゆくのだろう」 というのは、すなわち 「愛のゆくえ」 の話であって、つまりこのアルバムのコンセプトそのものだというのが面白い*2。
蛇足ながら、曲名の「クライベイビー」は、そのまま日本語にすると「泣く・赤ん坊」であり、英語では crybaby という1語で「泣き虫」みたいな意味があったり、または映画のタイトルだったりビートルズの曲名だったりするわけだけど、バンドマンにとって一番なじみ深いのは、ワウペダルの名称としての CRY BABY でしょう。
野暮だとは思いつつ、ギターのあーちゃんの機材に入ってたりするかなと思って調べたら、本人のブログで機材の紹介記事を見つけた。
2014年時点の情報ではあるけど、やはりCRY BABYを使っていたらしい。
この曲で踏んでんのかなーと思いながら聴いていたら、露骨にワウワウしてはいないけれど、2:00のところや4:10のところのギターはもしかしたら開きっぱなしのワウが入ってるかもなーと思った。それとアウトロの轟音もかな?
正解を知っている方は教えてください。
- アーティスト: きのこ帝国,佐藤千亜妃
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
- 発売日: 2016/11/02
- メディア: CD
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*1:これは単に、それまで自分の聴き方が不真面目だったせいだと思うけど…。
*2:「21g」というのは、人が死んだときに失われる体重が21gだというダンカン・マクドゥーガルの実験に由来すると思われる