やっと入手できた、大森靖子の1stアルバム。良い。
先にメジャーデビューアルバム(通算だと3枚目?)である『洗脳』は聴いてて、確かに彼女の巨大な魅力が見え隠れしているけど、まだまだCD音源での聴かせ方はこれからの課題で未完成かなと、そんな感想を抱いていた。
大森靖子の本領はライブ。どこかのそんな評判を真に受けていたけれど、この1stを聴いて、とんでもない思い違いだと気づいた。
なんだこれすげぇ良いじゃん。
アーティスト大森靖子はこの『魔法が使えないなら死にたい』の時点で、すでに一種の完成形に達しているんじゃないか。
たとえば小学校イチのスプリンターの我流走法。
たとえばレベルを上げて物理で殴るだけのビスケット・オリバの闘方。
それらがある種完成されているのと同じ。
ステイタスが綺麗な五角形に振り分けられていなくても、振りきれたゲージ1つで出くわす敵々を瞬殺できるだけの力がある。
その出っ張った角を全部削り、えくぼのようなあばたを全部パテで埋めて表面をけばけばしく装飾したようなアルバムが洗脳。
どうしてこうなってしまうのか、つくづく不思議だ。
浅はかな想像でも、これだから大手レーベルはと思わずにいられない。
今年発売の『TOKYO BLACK HOLE』は未聴。こっちも聴いてみようとは思うが、先に『PINK』と『絶対少女』のほうを聴いておきたいかな。
1曲目「KITTY’S BLUES」、「キ、キ、キティちゃんの白いところ6Bで塗りつぶす夢は」という出だしは、初聴で「あ、こいつやばい女だ」と思わせるのに十分なつかみだ。
個人的には「スカートから零れるブルースがみつからないように」というフレーズがとても好き。
続く「音楽を捨てよ、そして音楽へ」がアルバム的にはリードトラックになるんだろうか。
ポップで簡素な打ち込みのトラックに似合わぬハードコアな言葉がビリビリと響く、大森靖子の唯一無二っぷりを感じるに十分な楽曲だ。
最後の「魔法が使えないなら」とあわせて、音楽と魔法ってのがきっとこのアルバムのひとつのテーマなんだろうな。
無料でダウンロードしといて音楽に魔法を求めんじゃねぇっていう痛烈な嫌味と、こんなものができても魔法にはならねぇよっていう自虐と、それでも音楽にすがる弱さとがぐるぐると。
3曲目「新宿」も、トラック自体はずいぶんと簡素なもんだけど、それでいて最適解だ。
ほら林檎っぽいだろう?って皮肉を込めた勝訴ストリップパロディのジャケットで、あえて「新宿」を歌うかーっていうね。
アコギ1本、表現力の豊かさがわかりやすいほどよくわかるのが「夏果て」。
おっさんに殺される歌。
一見設計の狂っているような、間隔のいびつなメロディの階段が、聴き込むうちにだんだんと美しく聴こえてくる。恐ろしい歌。
今のところ一番お気に入りは「I love you」。
個人的に実は、手垢まみれの安い言葉で愛の歌ばかり歌うシンガーというのをどうにも毛嫌いしてしまう。
I Love Youなんてのは、その最たる言葉なはずなのに、なんだろうこの重さは。
こんなにもブルージーに「I Love You, あとはつまらないことさ」なんて言われた日にはもう完敗。すいませんでした。
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