ロックンロールに蟀谷を

踊れないほうの阿呆。Twitter:@oika

不確実性の高い文明社会で生じるストレス

前半の、完璧なリリース云々の話。日本の低成長と紐づけて、こういう「巧遅より拙速」という風潮はむしろ広がってきつつあると思う。

理解はできるし同意もするが、それはそれとして、生活の中で行為に対するレスポンスとして不確実なものが多くてストレスを感じることが増えてきたよ、というお気持ちを表明する2021年末。

不確実なレスポンス

スマホで音楽を聴こうと思って、サブスクの音楽アプリを立ち上げると、画面が真っ白のままで起動画面が表示されない。
なんか調子が悪いなと思って、アプリを一度完全に終了して再起動する。

今度はアプリが立ち上がったが、未ログインの状態に戻ってしまったので、ID/パスワードを再入力し、さらに別の認証アプリからワンタイムパスをコピペしてログイン。

さて竹原ピストルのアルバムでも聴くかと検索しようとすると「ネットワークに接続されていません」のメッセージ。
ああ、拾った公衆 Wi-Fi の回線がおかしいようだと思って、Wi-Fi をオフ。モバイル回線に切り替える。

オンラインになったので、満を持してケースから Bluetooth 接続のワイヤレスをイヤホンを取り出すと、スマホとのペアリングがうまくいかない。
いちどケースにしまって設定のリセットボタンを長押しし、改めてペアリングの設定を行う。

さて聴くぞと思ってスマホの画面を見たら、竹原ピストルのアーティスト写真に、なぜか石原裕次郎の顔・・。

こんなふうに、ひとつひとつのアクションに対して、期待したレスポンスが得られないことでイライラする機会が増えてきたなーと、最近よく思うことがある。

好きな音楽を所有せずにいつでも検索して聴けること、テープやディスクを持ち歩く必要もなく複数端末から利用できること、ワイヤレスなイヤホンをしたまま動き回れること。
ひとつひとつは以前より明らかに便利になっているが、反面、以前ならほぼ100%期待どおりのレスポンスが得られたアクションで、それが得られない確率が高くなったものもある。

不確実性の原因

原因はいくつもある。
製品の完成度が低いために生じる問題。現代社会の技術レベルとしての限界。あるいはテクノロジーの性質として避けられないもの。

ソフトウェアの完成度についていえば、ひとつには冒頭であげたような「巧遅より拙速」で、使わせてバグ報告が来たら直せばいいという文化の問題がある。
実際、おそらく個々のケースにおいて、この戦略は理にかなうことが多いだろう。
特に流行り廃りのサイクルが早い社会では、完成度を高めるよりも機を逃さないことの重要性が高まる。

AI ブームもこの風潮に拍車をかけた。
機械翻訳では明らかに不正確な翻訳文が混ざるが、それでも大部分が意味の通る文に翻訳されるなら、その利を採ろうという判断になる。

テクノロジーの性質や技術レベルの限界による部分としては例えば、でっかくて有線接続のものより小型で無線接続のもののほうが便利だが、有線より無線が不安定になることは避けられないし、バッテリーの容量と小型化はトレードオフの関係になる。

この先どうなっていくだろう

これまでにあげたような「不確実性」は、人類が選択してきた便利さの代償として生まれてきたものなので、今後もこの傾向は変わらず続くんじゃなかろうかと、ぼんやりと思う。

特にソフトウェア産業においては、オープンソースのものなど含め、過去に生み出された幾多のフレームワーク・ライブラリの肩の上に何重にも積み重なって開発しなければ、とても現代の消費スピードに追従できなくなっている。
こうなると、どこかの層で不確実性が入り込むことを避けるのはものすごく難しい。

しかも、確実性を100に近づけようとすればするほど、コストパフォーマンスの悪い努力になる。

乗り物や医療機器など、不確実性が許容されない部分以外は、拙速拙速と唱えてさっさと見切りをつけてしまうほうが効率的だ。

状況を変える道があるとすれば、ひとつにはプロダクトの「確実性」を可視化することだろうか。
RASIS の信頼性とか可用性みたいな感じで。

たとえばPCやスマホを購入する際の比較材料として、CPU/メモリ/カメラといったスペックと並んで「確実性」のスコアが見えるようにする。
この商品は低価格でハイスペックですが、確実性スコアが低いので、変な動きしないことは保証されてませんよ、みたいな。

本来はユーザレビューがこの「確実性」のスコアに相当するものなのかもしれないが、指標として十分に機能しているとは言い難い。

あるいは、コンピュータやテクノロジーに対する人間の期待値の持ち方が変わるべきときなのかもしれない。

人がお店のレジをやっているときは、お釣りの渡し間違いがあったとしても、「人間だから間違いもある」と許容できるが、電子マネーの引き落とし額が間違っていたりしたら、どんな電子マネーだよ!と怒りたくなる。
もしかしたら、この感覚自体が古くなっていくのかもしれない。

結論

結論らしい結論はないですが、よいお年を。