ロックンロールに蟀谷を

踊れないほうの阿呆。Twitter:@oika

中村佳穂『AINOU』

昨年から注目株な雰囲気のあった中村佳穂。

ほぼ前知識なしに『AINOU』を聴いたが、んーいいっすねぇ。

類まれなセンスをぶん回して音で遊ぶ天才の表出。

これからの時代に世に出てくる天才はこんな姿になるのだろうというか、デジタルトラックだとか生楽器だとか、そんなところで線引きすることに意味を見出さない。

ただ素直にひたすらに、気持ちいい音を選びとって並べて、バチっとはまればほら素敵でしょという。シンプルで良い。

音感あふれる言葉選び

1曲目の 「You may they」 とは何かと思いきや、歌詞を見れば 「有名税」 の話。

続く2曲目 「GUM」 では「差異や炎はその瞳のお だらない話し方のな くしんの中」としりとり遊びの歌詞。

こういった言葉遊びも面白さもさることながら、選ぶ言葉の音感がいちいち気持ちいい。

「食う寝る 食う寝る 食う寝る」だとか、ah, you and meにさえ聞こえる「愛、故に」とか。

そのセンスが全開に出ちゃっているのが 「そのいのち」 。はいからいきゅねん、いっけんどし。うつつうだらん、うってんだゆ。

何食ったら出てくる言葉だ。

圧倒的なグルーヴ

リードトラックである3曲目 「きっとね!」 の圧倒的なグルーヴ感がたまらなく好きだ。

ピアノのブレイクが生む緊張と緩和、悠々としたスキャットの心地よさ。

とくにたまらんのが「いき延びるたびっびっびっびっびっびっびっ」というセルフディレイから「ん~秘密をあちこち」と着地する直前の浮遊感。

人格の多彩さ

表現力というか人格の多彩さを見せつけられるのが、急に正統派になったようなバラードの 「永い言い訳」 、そしてひゅるっとしたメロディが癖になる 「忘れっぽい天使」

どちらもスロウテンポなピアノバラードながら、別の人格が歌ってるんじゃないかとまで思えてしまうほどに、息遣いまで優等生的な「永い言い訳」と、まっすぐな情動の残る「忘れっぽい天使」の対比は圧巻である。

音楽は自由だ

どの曲を聴いてもとにかく自由だ。

アルバムと同名の 「AINOU」 はフィーチャー曲で、本人が歌いだすのは2分過ぎてからだが、これもとにかく自由というか、自由とかなのかこれは。

鍵盤を片手でポロンポロンと叩いて作ったようなメロディに、「息もできない」「熱をおびて」っていう2つのモチーフを適当にはめ込んで、尺の足りないところをアドリブで埋めたんじゃねーかというようなセンスまかせっぷり。

けしゴムも使わずに作詞したような「アイアム主人公」もよいです。

まとめ

良い。

AINOU

AINOU