ロックンロールに蟀谷を

踊れないほうの阿呆。Twitter:@oika

最新の心肺蘇生法はここまで洗練されていた

 最初に個人的な話を書くと、先日、自社の社員が職場で突然気を失って倒れるということがあった。

 幸いにして呼吸はしっかりしていて、すぐに意識も取り戻したので、心肺蘇生だAEDだということにはならなかったのだけど、なによりもショックだったのは、その社員が自分の目の前で倒れていながら、とっさにどうしていいかわらかず数秒立ちすくんでしまったことだ。

 そんな折、絶妙のタイミングでCPR(心肺蘇生法)とAEDの話を聞ける勉強会があって、食い気味で参加してきた(Link: CLR/H 第94回「Meets IT and AED」に参加 | OITA: Oika's Information Technological Activities)。

 そこでCPRを勉強&体験してきたんだけども、最新の心肺蘇生のガイドラインは自分の中にぼんやり残っていた古いままの知識と比べるとずいぶん進化していて驚いた。

 最新といっても、いまのガイドラインが発表されたのが2010年10月なので、賢明な方にとっては何をいまさらという感じであろうとは思う。自動車免許の教習所で習ったよという人も居るだろう。

 それでも自分のように知らない人は知らないだろうから、改めて書いておく価値はあると思うんだよこれは。

CPRの重要性

  ごめんなさい、ここは情報元がWikipediaだけで申し訳ないが、最初にCPRの重要性について触れておく。

 心肺の停止時には、一刻も早く脳へ酸素を送り込む必要性があって、そのための方法がCPRだ。

 2分以内に心肺蘇生が開始された場合の救命率が90%程度なのに対し、4分になると50%、5分だと25%程度になるらしい。

 Link: 心肺蘇生法 - Wikipedia

 

心肺蘇生ガイドライン2010

 JRC::日本蘇生協議会のページから引用しようかと思ったら、 一般向けの情報が全然古いガイドラインのままじゃないか。なんという怠慢だ。

 ちょうどいいから↑のサイトの「あなたにもできること」を見てもらえれば(2015年5月現在)、2010ガイドライン以前はこんな内容だったんだなというのがわかる。

 

 さて、ちゃんとした2010年のガイドラインは一般財団法人日本救急医療財団のページからダウンロードできる。

成人用BLSの簡略化されたアルゴリズム図

 上の図は「アメリカ心臓協会」のガイドライン2010(PDF)から引用した、一次救命処置のシンプルなアルゴリズム図。

 もうちょっと詳しい全体手順としては、東京消防庁のページがイラスト付きでわかりやすい。

 とにかく2010年ガイドラインのポイントは「実行性」で、どんなに完璧な処置のガイドラインを作ったところで実行されなければ意味がないという考えのもと、減らせる要素を極力減らして作られたようだ。

 以下、要点をいくつか。

 

気道確保も人工呼吸も不要

 衝撃。

 これまでは気道確保(A)、人工呼吸(B)、胸骨圧迫(C)でA-B-Cの順と指導されてきたが、気道確保も人工呼吸もすっとばして、胸骨圧迫*1からやるべし!ということになった。

 さらに、人工呼吸については、「可能であれば」やるということになっている。

 やり方がわからなかったり、口を合わせることに抵抗があってもたつくくらいなら、いっそ無理にやろうとせず、胸骨圧迫を途切れさせないようにすることのほうが重要だという判断になったということだ。

 人工呼吸をする際には気道確保が必要だが、胸骨圧迫だけする場合は気道の確保も不要。

 また、人工呼吸と組み合わせる場合は胸骨圧迫と人工呼吸を30回:2回の割合で行う必要があるが、人工呼吸をやらない場合は、回数を気にせず胸骨圧迫をやり続ければ良い。

 これで覚えることがずっと少なくなった。

 

胸骨圧迫は「胸の真ん中」を「強く」「速く」

  胸骨圧迫をする位置について、昔は、服を脱がして肋骨から指何本分ずらして・・・みたいな内容だったが、これもかなりシンプルになった。

 まず、衣服を脱がさない。

 服の上から、「胸の真ん中」(だいたい両乳首の真ん中あたり)を圧迫する。

 これも、服を脱がせるのに躊躇したり、正しい位置がわからなくてためらってしまうよりも、とにかく押す!ということ、つまり「実行性」を優先させた変更だ。

 

 圧迫の深さは「4~5cm程度」から「5cm以上」に、テンポは「100回/分程度」から「100回/分以上」にそれぞれ変更されている。

 最適値が変更されたというよりは、実際の現場で強さ・速さが十分でないケースが多いため、上限をとっぱらうことで、強すぎること・速すぎることへの心配を無くそうという意図だと思う。

 先日の勉強会でも実際に胸骨圧迫を体験したが、イメージしてたよりもだいぶ強く、速くやる必要があって、けっこうへとへとになる。

 

呼吸の確認は10秒以内

 以前までのガイドラインでは「見て、聞いて、感じる」ことで呼吸を確認するとされていたが、この表現は削除された。

 主な理由は、死線期呼吸という心停止状態での呼吸を見逃さないようにすること。

 なので「普段通りの呼吸」がなければ呼吸なしと見なすことになっている。

 また、ちらっと口頭で聞いた話だが、訓練のない人が呼吸を確認することは非常に難しい場合が多く、もたついて胸骨圧迫をやるかどうかの判断が遅れるくらいならいっそ呼吸確認の手順も削除して良いのでは?という話もあるらしく、次回のガイドライン更新で呼吸確認が無くなる可能性もあるようだ。

 

AEDは「迷ったら使う」

 AED使用の重要性は2005年ガイドラインから引き続き強調されている。

 AEDってなんだっけ?という人は↓こちら。

 Link: AEDで助かる命 | 公益財団法人 日本心臓財団

 

 ポイントは、使うべきかどうか迷ったら、とりあえず装着すること。

 AEDの電源を入れ、パッドを貼ってプラグを差せば、電気ショックが必要かどうかはAEDが勝手に判断してくれる。心停止していない人に貼っても、何も起きないだけだ。 

 

AED

 今回の勉強会で実物(訓練用だけど)を初めて見たが、思ったよりずっとポップなデザインだなぁという感想。

 操作もいたってシンプルで、電源ボタンと実行ボタンしかない。

 電源を入れると、音声でパッドを貼ってプラグを差してくださいと言われるので、上半身の衣服を脱がし、言われるままにパッドを貼ってプラグを差すと、勝手に心電チェックが始まる。

 電気ショックが必要だと判断されると、そういう音声が流れるので、人が離れていることを確認して実行ボタンを押す。

 2分間のインターバルをおいて、再度心電チェック&必要あれば電気ショックが行われる。

 その間は胸骨圧迫を途切れさせない。

 以上のことだけ覚えておけば、事前訓練がなくても十分使えるレベルだと思う。

 パッドを貼る位置もバッドにイラストで描いてある。

 

さいごに

 先日参加した勉強会で課題として取り上げられていたのは、AEDの利用率の低さである。

 背景には、そもそもAEDの存在や意義が知られていないことと、AEDを使おうと思ってもどこに設置されているかわからないという問題がある。

 この問題の解決のため、AEDオープンデータプラットフォームというものを作って、地図アプリ等で自由に利用できるようにしようという試みが始まっている。

 現状、AED設置状況の管理はけっこういい加減というか、しっかりした体制がこれまで確立されていなかったようだ。

 それでこのオープンデータへのAED情報登録が思うように進まない場所もあるらしく、上記ページに情報登録ご協力のお願いが書いてあるので、近所でAEDを見かけた際にはぜひその情報のご提供を! 

 

 さてさて、ここまでの内容は2010年のガイドラインを基にしましたが、ガイドラインの見直しは5年ごとに行われるらしいので、すぐに2015年の内容が到着しますね。

 なんとなく楽しみになってきたので、その際はまたご紹介できればと思います。

 

 ※追記:2015年ガイドラインについて書きました。

  AHA心肺蘇生ガイドライン2015が発表されました

 

*1:いわゆる「心臓マッサージ」。実際に圧迫するのは心臓でなくて胸骨であるというのと、心臓というと左側についているというイメージ(実際はほぼ真ん中)があるため、呼び方を変えたらしい。