ボビー・エンリケは「野人」と呼ばれたジャズピアニストだ。1996年没。
彼の名前は拳奏法、肘鉄奏法のような目立つパフォーマンスとセットで語られることが多い。
が、そのせいでイロモノ扱いしてしまうのはあまりにも勿体ない。
豪快な演奏のベースにあるのは、指1本でも拳でも正確に弾き切ってみせてなお余りあるその打鍵技術。
そして何よりエンリケが僕を惹きつけるのは、ソロを通して聴いたときに、その打撃が、当然そうでなければいけなかったように――この部分は拳をつくって殴ることこそが唯一の正解であったように納得させられる音選びのセンスである。
『The Prodigious Piano of Bobby Enriquez』収録の「Hi-Fly」には、そういうエンリケの魅力が十二分に詰まっている。
このトラックはまず、曲自体のアレンジが最高にクールだ。
「Hi-Fly」自体はRandy Weston作曲のスタンダードナンバーで、たいていは4ビードで、どちらかというとゆったりめに演奏されることが多いか。
歌を付けたものだとこんな感じ。
エンリケ版のHi-Flyは、サンバ調のリズムもさることながら、前のめりなテーマの音の置き方が最高に気持ち良い。
もともとは(Bobby Enriquezの名を広めた当人である)リッチーコールのアレンジがベースなのかな。
テーマ明けにいきなり「マンボ No.5」の引用でひき込み、そのまま序盤はテンションを抑えたまま軽快に、徐々に豪快に、長いソロの最後まで一切の無駄なくきれいに流れる。
加えて、ドラムの反応性が素晴らしい。
ピアノが次に何を弾こうとしているか見抜いているような合いの手の数々によって、ピアノソロの流れが一層洗練されて聞こえる。
一聴するとテクニックやパフォーマンスが目立ってエモーショナルな印象が先行しがちだが、その実、彼の音楽は十分に洗練されていて、聴き込むことで二度味わえる。
たとえば本アルバム1曲目の「Spain」。
4分あたりのところでピアノとベースで小節の入りがずれていて、慌ててベースがピアノにあわせ補正するシーンがある。
イメージ的に、1人で暴走するエンリケに他の楽器がうまく合わせたように聞こえてしまうが、よく聴きなおすと、ピアノソロの最初のほうで実はベースがカウントを間違っていて、ピアノとドラムはそれに引きずられずに小節をキープしていたことがわかる。
ところで、ボビーエンリケを聴きながらブログを書くと、つられてPCのキーの打音がでかくなりますね。
The Prodigious Piano of Bobby Enriquez
- アーティスト: Bobby Enriquez
- 出版社/メーカー: Gnp Crescendo
- 発売日: 1992/01/21
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