ロックンロールに蟀谷を

踊れないほうの阿呆。Twitter:@oika

tricot『3』

 6月からブログ更新してなかったのか。まじか。書きたいことはいっぱいあるのだけどね。時間が速い。早いっていうか速い。

 さて、前回「気が向けば書く」と言って書いてなかった、tricotのアルバム『3』のレビューから消化しておく。ずいぶん時間が経ってしまったけれど。

アルバムリリースについて

 文脈としては、komakiさんの脱退後、これという固定ドラマー不在の状況が続いていたところを、本作ではほとんどの曲を吉田雄介という固定のサポートドラマー*1が担当し、曲作りから参加しているという。

 なんせtricotといえばその変態的なビートが武器のひとつであって、そこに曲作りの段階から意思疎通のできるドラマーを参加させられないというのは完全に痛手であったろうから、この一事をとっても期待度の高かったアルバムだ。

 もうひとつ変わっている点に触れておくと、CD媒体のリリースの形。

 通常版はブックレットも歌詞カードもなし*2、マジックで乱暴に「3」と書いただけのパッケージで、1500円。

 それと別に、枚数限定のデラックス版があって、所有欲をくすぐる豪華パッケージ、4500円。

 考察はソノミチの方々に譲るが、音楽ビジネスを再定義しようという意欲を感じる試みではある。

曲の話

 さて、曲の話。

 ライブのときにイッキュウ殿が「楽しいアルバムができました」と言っていたとおり、「楽しい」という表現の似合うアルバムになっていると思う。

T1. TOKYO VAMPIRE HOTEL

 Amazon プライムビデオ限定配信の「東京ヴァンパイアホテル」主題歌。

 「何度も蘇る腐らぬ野望」のところからフックへの復帰のしかたに、無駄なビートは1拍だって刻みたくないぞというtricotらしい感じが出ていてニヤッとする。

T2. WABI-SABI

 これよこれ。聴けば聴くほどにわからなくなる変態ビート。そこに悠々と乗る変態フレーズ。

 変拍子バンドというラベルの檻で自己模倣に苦しむ段階をとうに越えて、手にした新しい刀を大喜びでぶんまわし遊ぶ姿勢。

 歌詞のちょっとしたギミックも好みだ。「戸惑う旨を隠してエフェクトしていた言葉を今クリアにするとしたら」でエフェクトがかったボーカルがクリアになるところとか、「誰もが誰かの詩を蔦って涙してる」「誰かが誰かの死を使って涙してる」という言葉の掛け方とか。

T3. よそいき

 ツボを外さないベースのインパクトとファンキーなギターのフレージングが交差し、入りからとにかくかっこいい1曲。

 イェイイェイ フッフーのコーラスワークもさることながら、 「答えてよベイベー」 のところのシャウトは中嶋イッキュウ史上でもトップレベルのかっこよさではないか。

 「裏切られたって泣いていいのは信じていた人だけ」 と、唐突に投げ込まれる真理にドキッとする。

T6. pork side, T7. ポークジンジャー

 導入曲「pork side」から「ポークジンジャー」への流れは、1stアルバム『THE』における「pool side」から「POOL」への流れに由来するセルフオマージュであろう。pork sideってなんだよ。

 しかしこのpork sideを経て、ポークジンジャーへ入る瞬間の緊張感がたまらない。鳥肌が立ってしまうような空気の歪み。

 それだけに、ポークジンジャーのサビはもう少し違ったアプローチもあったのではと思わなくもないかな。

 なお、このポークジンジャーにも、歌詞カードを見て初めて気づく仕掛けがちらほら。

 「部屋中にシシューが施されて素敵」は、施されるという動詞からして連想するのは「刺繍」なんだけども、pork side側の歌詞を見ると 「ヘア中に死臭が」 となっていたりする。

 「心配だからえきについたら電話するね」も耳で聴いてる限りでは「駅に着いたら」だと思うところ、歌詞カードを見ると 「液にツいたら」 になっていたり。

T9. 18,19

 アルバム中でもっともトリッキーな部類に入る1曲。

 さすがに歌をのせるのにも苦労したんだろうという跡が垣間見える。

 ドラム吉田氏の変態的なビート解決も光る。良いドラマーを見つけたもんだ。

 あと完全に個人的な趣味として、ドラムのスティックカウントで始まる曲が好きなんだ。これについてはまた機会があれば書く。

T10. 南無

 「南無 × ∞」 という歌詞カードをみて、ハイロウズの「デトロイト・モーター・ブギ」を思い出した。

T12. 節約家

 アルバムに先立って『KABUKU EP』として発表されたリードチューン。

 「節約家」というテーマの面白さもさることながら、がっつり後ろにもたれかかるような乗り方をするフックのビートアプローチが爽快。それとベースのエモさ。

 あと、歌詞カードにわざわざ最後の「め」書かんでええやろ。

T13. メロンソーダ

 アルバムの最後にこんな感傷的な曲を、こんなあっけない短さで挿入されると聴き終わった後の余韻がすごい。

 「起きたらあの日に戻ったりはしないのに」というこの曲のMVが、覆水が盆に返る逆再生ビデオになっているのも面白い。

 

それでは、よいお年を。  

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*1:先日、ようやく正式メンバーとしての加入が発表された (tricot、ドラマーの正式加入を発表 (2017/11/16) 邦楽ニュース|音楽情報サイトrockinon.com(ロッキング・オン ドットコム)

*2:歌詞カードはpdfで公式サイトからダウンロードできる