RadioheadはThe BendsもKID Aもすごく好きなんだけど、最近ふと思い返してみたときに改めて良いアルバムだったなーと思うのは、この『Hail To The Thief』だったりする。
Creepの一発屋だった彼らが、『The Bends』『OK COMPUTER』で確固たる地位を築き、『KID A』『Amnesiac』でとち狂ったと言われつつも世界を認めさせたあとで、「じゃあこれ、今までの楽器でやってみよっか」ということでやってみたような、ものすごくカジュアルに表現しちゃうとそんな文脈にあたるアルバムだ。
「泥棒に敬礼」という意のこのアルバム名。
アメリカ大統領就任の際に使う音楽「Hail To The Chief」をもじって、ブッシュ反対派が皮肉として使っていた言葉らしい。
なので必然的に政治的な意図を勘ぐってしまうというか、まあ実際トム・ヨークはブッシュ嫌いだったりしたわけだけども、このアルバム全体で表現されているのは、もっと広い世界へ向けた警鐘のように思える。
そう、これ警鐘だったんすよね。
1曲目「2 + 2 = 5」からしてもう「おまえが注意を払ってなかったからだ!!」って露骨に責めてくるし。
「僕はずっと家にいるよ、2たす2が常に5になる場所に」という歌詞。
これが『1984』からの引用であるならば*1、2+2=5になる場所とは、洗脳のための拷問室「101号室」のことだ。
そこでは2+2=5のような明らかに間違った考えすらも、二重思考により信じ込めるようになる。
泥棒に敬礼し、知らぬ間に間違った考えを信じ込まされてる。お前が気を払ってなかったからだ、もう手遅れだと、初手からがっつりツメられるわけだけれども、そのギターサウンドがまあかっこいいんだ。
つづく「Sit down. Stand up.」は起承転結の「承」。
1曲目の雰囲気を引き継ぎながら、より歌詞の禍々しさが際立つ。
jaws of hell(地獄のアゴ)ってなんのこっちゃと思ったら、巨大な怪物が口を大きく開いて待ち構えている姿が、中世ヨーロッパでよく見られた地獄の入り口のイメージらしい*2。
副題は「蛇と梯子」。
英国に同名のボードゲームがあって、もともとは因果応報と救済をテーマとしたものらしい。
あるいは1981年の、イギリスの植民地主義をテーマとした小説『真夜中の子供たち』にもこの名のゲームが登場するらしく、それを意識しているのかもしれん。この小説は読んでないので詳細わからないけど。
そしてこのアルバムの中でも世界観が圧倒的なのは、やっぱり「There There.」でしょう。
寓話のようなミュージックビデオがよく似合う、幻想的なアンサンブルに聴き惚れる。
ロックとは、かくも美しい音楽だったか。
純粋にこれだけ美しいと、これが何かの警鐘だとか、思想に結び付けてしまうことがかえって勿体なくなってくる。
We are accidents waiting to happen. 僕らは発生待ちの災いだ、ってか。言ってくれるわ。
かと思えば、そのあとに「A Punchup at a Wedding.」。
酔っぱらって結婚式で殴り合いだーとか、急に俗世的な表現でなんだよと思うが、確かにこれ以上に人様の大事なものを台無しにするわかりやすい喩えもない。
ベースのリフがかっこいい。
個人的にThere Thereと同じくらいに好きなのが、ラストの「A Wolf at the Door.」。
ぽいなとは思ったが、 ベートーヴェンの「ピアノソナタ第14番」(いわゆる「月光」)をイメージして作曲されたらしい。
わかりやすい英語で歌われるサビに、学生だった当時、初めて英詩の歌の中にちゃんと感情を見つけたような感覚をおぼえたのが個人的な思い出。
あとdance you fucker, dance you fuckerとか、the flan in the faceあたりの響きの良さも気に入ってた。
それと、ここにも「蛇と梯子」が登場しますね。
ここだけ見れば文脈的にボードゲームの名前として使っているけど、前述のとおり何かの象徴なのでしょう。
『真夜中の子供たち』読んでみるか…。
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*1:実際には「2+2=5」は『1984』以前からある表現らしい。参考:2+2=5: 忘却からの帰還