かつてZAZEN BOYSの向井秀徳は、「くりかえされる諸行無常 よみがえる性的衝動」という歌詞をいろんな曲で何度も使うのはなぜか?と問われ、「何回も言いたいんだ。1回じゃ言った気にならん」と答えたという。
影響を直接受けたかどうかは別として、この向井秀徳というモデルがあったことで、言いたいことは何回でも言えばいいじゃんという空気が邦ロック界に出来たような気はする。
何回も使いたい言葉。それはきっと、思想や感情を表現しようとすると自然に口をついて出る、いちばんしっくりくる言葉なんだろう。
というわけで、頻出する歌詞からバンドを捉えてみるというのはどうでしょうか。
好きなバンドから3つ紹介。
いつもゼンモンドー - Dr.DOWNER
何も変わりはしないからいつもと同じゼンモンドー
(絶望はとっくに飽きたのさ)
Hey, wait いつものゼンモンドー どうにもならないことばっか
(レインボー)
答えを探したって結局はゼンモンドーさ
(幻想のマボロシ)
禅問答癖がすごいわ。
といってもまさか本当に禅の修業をするわけじゃなくて、比喩的につかうような、終わりのない問答のイメージとして「ゼンモンドー」なんだろう。
Dr.DOWNERの歌に常に表れるのは、変化のない日々、あっという間に過ぎていく時間への焦燥感、苛立ちだ。
くだらない、どうでもいい、どうにもならない、何も変わらない無限ループの毎日の中で、それでも何かが変わってくれるのを待っている自分に気づいて、その矛盾を自分に問いかける。
そんなもやもやを、そのままのストレートな表現で、ストレートな地声で叫ぶ。
それが彼らのロックンロールなのだと思う。
彼岸花が咲き続ける - SuiseiNoboAz
雨上がりこわい虹のように
歩きつづけている彼岸花咲きつづけている
(over the rainbow)
おれはまだボサッとしている
疲れきって 腹がへって
彼岸花 咲き続けて
(ultra)
彼岸花きれいだった
咲きつづけ夜になった
(メキシコかアイダホ)
引き延ばされた彼岸花、そのたなびいたいまわに、いま!
下品な赤の集中線
(Ask For Tiger)
咲き「続ける」という表現には、終わるものだという前提がある。
秋のお彼岸に咲いて1週間で枯れるこの花が度々もちだされるのは、時の象徴だろうか。
この「咲き続ける」という表現から受けるのは、時が進んでいないような、あるいは本来短いはずの時間が延長されているかのような印象。
最後の「引き延ばされた彼岸花」は、この部分だけ読めば彼岸花の花びらがびよーんと伸びていることと解釈するのが自然だと思うが、「咲き続ける」と対比すると、これも時が引き延ばされることを言っているんじゃないかという気もしてくるでしょ?
ボアズの歌詞には彼岸花のほかにも「紫陽花」「アカシア」といった花が登場する。
彼岸花と並べると 赤・青・黄色と三原色。
これらの花は情景を描くためのパレット的な役割にもなっているようだ。
「新宿区」「環状七号」「中野方面」と、具体的な地名で東京を歌いつつ、それでもどこか寓話じみた美しさがあるのがボアズの歌詞の面白いところ。
騒音で武装 - ハヌマーン
そして彼女は騒音武装をして この街の喧騒に消えてゆくのでありました
(ハイカラさんが通る)
騒音武装の夜 孤立無援の夜 不透明な長い旅
(デッセンクルー)
俺は几帳面に整頓された理屈の中、泳いでいるセルフィッシュ
轟音武装して彼と只、目を瞑って歩いている
(比喩で濁る水槽)
核武装でも、理論武装でもなく、騒音武装。
その実なんの武装にもなっていない無力な状態だが、ヘッドホンで高揚する音楽を大音量でかけて外界を遮断しているときの、根拠のない全能感。これを武装と呼ぶ弱さ。
ハヌマーンにはこういう、できれば気づかないふりをしておきたい人の感情のダークサイドにわざわざスポットライトを当てるような節がある。
笑う集団の中学生に遠回りを強いられ、行けもしない旅行の計画を立てて笑い、「愛し合う」という行為の醜さにうしろめたさを覚える。
ギターボーカル山田亮一の現在のバンド、バズマザーズがこれもまた、サウンドが突き抜けてカッコよくなっているのに相変わらずの弱さで、「酩酊武装」しないと郷里も歩けない始末であるよ。
以上。ほかにもこんなバンドがあるよという情報おまちしてます。
THE (OVERUSED) END OF THE WORLD and I MISS YOU MUH-FUH
- アーティスト: SuiseiNoboAz
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- アーティスト: ハヌマーン
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